八綱基本証侯
八綱弁証は、八綱すなわち、表・裏・寒・熱・虚・実・陰・陽を用いて臨床症状を分析し、病人にどのような問題があるのかを中医学の基礎理論に基づいて大きく分類するものです。中医学の弁証はまだ他にもあって、八綱弁証だけでは不十分です。
1. 表裏弁証
(1) 表証
表証は「正(衛)気が皮表の浅層で外から入ってきた邪気に抵抗し、新たに生じる悪寒発熱を主症状とする、比較的軽症で浅い証侯」と定義されます。 西洋医学にはない概念です。
たとえば、戦争が起きて、敵が国境に来たら、私たちの自衛部隊は前線に出て敵と戦います。ただし、それは戦争の初期段階で変化は国境線上に存在します。表証はそのような状態にたとえることができます。
表・裏・寒・熱・虚・実・陰・陽の八綱の中で、ただ表証だけが比較的特徴的で具体的で、他の証はみんな漠然としています。
表証では必ず悪寒があります(必有症)。悪寒がなければ表証ではありません。悪寒は表証と判断する上で、とても重要な根拠になります。発熱は同時にあることもありますが、ないこともあります。
その他の証ではほとんど見られることがない特徴的な症状(特徴症)としては、脈浮、鼻塞、鼻水があります。表証でよく出現する症状(常見症)には、頭痛と身体痛があります。他の証でも見られる、特徴的ではない症状(一般症)には淡紅舌、薄白苔または薄黄苔などがあります。その他に見られることがある症状(或見症)には、咽が痒みや痛み、咳があります。
かなり多くの医者が、患者が来て、悪寒発熱、鼻づまり、鼻水などの症状を訴えると、話もよく聞かないで脈も舌も見ないでただ発熱があるからといってすぐにペニシリンを処方しますが、多くは原因が細菌でないので症状は改善しません。
(2) 裏証
裏証は以下の3つの語句で表されます。
①非表即裏・・・表証でなければすべて裏証です。
②症状繁多・・・あらゆる症状が見られるので例を挙げることができません。
③臓腑症状が主・・・咳・動悸・下痢など臓腑の症状が主体になります。
表証と比べると、少し病程が長く、病状が重く、病位が深いと言えます。
私たちが弁証する時に、裏証というだけで満足できますか? もちろんできません。どのレベルの裏なのか? 1つの臓腑の病変なのか? 筋骨上にあるのか、皮下組織にあるのか? 臓にあるのか腑にあるのか? 上にあるのか下にあるのか? さらにもう少し具体的な証を弁証する必要があります。
(3) 半表半裏証
半表半裏証とは、すでに完全に表証ではなく、まだ完全には裏証になっていない状態、あるいは邪正が闘争して表と裏を進退している一種の状態を言います。
往来寒熱は半表半裏証には不可欠で、必有症であり、特徴症です。ただ、往来寒熱があるだけでは半表半裏証とはいえません。傷寒論では胸脇苦満、心煩喜嘔、口渇、不欲飲、腹痛、心下悸、小便不利、咳、口苦などのたくさんの症状が挙げられていますが、これらの症状は或有症です。これらはすべて裏証の症状です。病人に往来寒熱だけがあるということはありえないことで、往来寒熱があれば、他の或有症があるはずです。
邪気が盛んになれば悪寒が出現し、正気が盛んになれば発熱が出現します。悪寒と発熱が同時に出現するわけではありませんが、往来寒熱は表の方面に偏っている症状と言えるでしょう。また、口が苦い、脈弦、胸脇苦満などはすべて裏証の症状です。筆者は半表半裏証は1つの表裏同病だと考えています。典型的ではなく、単純でもなく、完全な表証でも裏証でもありませんが、一種の過渡的段階で、表裏同時ではなく、表裏を出入りしている状態です。
(4) 表裏証鑑別
表証を特に強調する理由は2つあります。
①表証だけがとても具体的な証だからです。
②表証を区別できれば残りはすべて裏証と言えるからです。
たとえば100人のうち1人が悪人の場合、
悪人は誰かわかれば残りの人は善人と言えるようなものです。
2. 寒熱弁証
たとえば、食積や情志刺激は寒でしょうかそれとも熱でしょうか? 表証でなければ裏証だと言えるようには寒熱をはっきり分けることができません。
寒熱で分けられない病気の性質がたくさんあるのにあえて寒熱を八綱のうちに含めるのはなぜでしょうか? それは寒熱が最も生体の陰陽の盛衰を反映するからです。
(1) 寒証
寒証は次の5つの文字で表わされます。
① 冷・・・悪寒、寒がり、四肢が冷える、喜温
② 白・・・冷蔵庫の中の物のように、冷えていると腐りません。
③ 痛・・・特に実寒証では強く出現します。寒邪の凝滞性、収引性によります。
④ 遅・・・脈が遅くなります。
⑤ 踡・・・脈緊、体を丸くして寝る、無汗
(2) 熱証
熱証は次の5つの文字で表されます。
① 熱・・・発熱、悪熱、喜涼、灼痛
② 黄・・・熱があると腐りやすく、黄色や赤色になる。
③ 乾・・・水分を消耗するので口渇、大便乾燥、舌体・舌苔の乾燥、皮膚の乾燥。
④ 数・・・脈が速くなります。
⑤ 乱・・・昏睡、錯乱など。
3. 虚実弁証
「邪気盛んなれば即ち実なり、精気奪わるれば即ち虚なり。」と言われるように、実は邪気が盛んなことを強調し、虚は正気が不足していることを強調しています。あらゆる病は虚実を離れないので、どんな病も虚実を弁証する必要があります。
(1) 実証
風・寒・暑・湿・燥・火の外邪や、
痰・飲・水・湿・膿・気滞・血オなどの体内で産生された病理産物によって生じます。
特徴は黄帝内経には
①入・・・外邪の侵入を示唆する病歴がある。
②急・・・発症が急で経過も比較的短い。
③有・・・痰飲・水湿・オ血・膿毒などがある、と記載されていますが、
私たちが実証と判断する根拠は次の3点です。
①新しい、急に発症する病である。
②急激に発症し、邪正闘争が激しく、症状が激烈ではっきりしている。
③正気が未衰で体質が壮実である。
(2) 虚証
正気虚弱、不足、虚衰によって生じます。
正気とは、気・血・陰・陽・津液・精が含まれます。
虚証は正気の不足が主で、邪気はあってもなくてもかまいません。
たとえ邪気が盛んでも、正気が不足していれば反応は弱く、実証にはなりません。
また、邪気がなくても、正気が不足していれば虚弱証を呈します。
特徴は以下のとおりです。
①出・・・嘔吐・下痢などで消耗して発症する。
②緩・・・病状がゆっくり経過し、長期間にわたる。
③無・・・体質が虚弱で痩せているなど。
4. 陰陽弁証
陰陽は八綱の中の表裏、寒熱、虚実を概括できる、八綱の中の総綱です。
陰陽は指さない所はなく、定まって指す所はありません。(陰陽是無所不指、無所定指。)
たとえば、鉛筆は陰でしょうかそれとも陽でしょうか?
鉛筆自体は陰とも陽とも言えませんが、鉛筆の外側は陽、内側は陰というように、
具体的な1つの物それ自体は陰とも陽とも言えませんが、1つの具体的な物の中にはすべて陰陽が存在するということです。
(1) 陰証
およそ抑制状態や鎮静的、虚衰的なものは陰に属します。症状の発現が内側で下に向かい、なかなか発現しないものは陰に属します。下に向かうもの、内に向かうものは陰に属し、上に向かうもの、外に向かうものは陽に属します。
狭義の陰証は虚寒証を指します。裏に虚寒があるのは典型的な陰証です。
(2) 陽証
急激に新たに発症する病で、病勢が急で速いのが特徴です。
突発的であったり暴病は陽に属し、緩慢で鎮静的なのは陰に属します。
興奮や亢進は明らかに陽に属し、症状が上に向かい、外に向かい、容易に発現するのは陽に属します。八綱の表証、熱証、実証は陽に属します。
狭義の陽証は実熱証を指します。